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第2話 その侍女、本当に忠実ですか?

last update Tanggal publikasi: 2026-06-03 17:50:53

「名残惜しいですが、そろそろ帰らねばなりません」

「まあ、もうそんな時間なんですの?」

「楽しい時間はあっという間ですね」

エーリックが器用にウィンクすると、ウェルシェがパッと花が咲くように笑った。

「また、あなたにお会いできる日を楽しみにしております」

「私も楽しみにお待ちしておりますわ」

潤んだ瞳でウェルシェから可愛く見上げられ、エーリックはすっかり舞い上がってしまった。

(これって、ウェルシェも僕に恋しちゃってるんじゃない?)

エーリックはカッコよく颯爽と帰るつもりだった。だが、顔は締まりがなく、足取りも地につかずふわふわして覚束おぼつかない。

「あらあら、あんなにフラフラして大丈夫かしら」

エーリックの背中を見送りながらウェルシェはくすりと笑った。そこに先程までの純真無垢な妖精の姿はどこにもない。

背後で眼鏡をかけた侍女のカミラが小さくため息を漏らした。それに気づいていながらウェルシェは何も言わず四阿ガゼボに戻って座った。時を待たずしてカミラがスッと音もなくお茶を用意する。

目でカミラに礼をしたウェルシェはお茶を一口含んで口を潤した。

なんとも息の合った主従である。

「ちょっと頼りなさそうだけど、素直そうだし善良な方のようで安心したわ」

「さようでございますね」

豹変した主人ウェルシェの態度に驚く様子も見せずにカミラは相槌を打った。

「これなら結婚後は私が主導権を握れそうね」

「もう既に握っておられるではありませんか」

呆れたようにカミラの目が据わる。

「私はエーリック殿下が憐れでなりません」

「あら、こ~んな理想のお嫁さんをめとれるのよ。Win-Winじゃない」

幻想的な白銀の髪シルバーブロンド神秘的な翠緑エメラルドの瞳、肌は抜けるように白く、ほっそりとした小柄な令嬢――エーリックの目にはウェルシェがさぞ儚く麗しい姫君の如く映った事だろう。

「私みたいな完璧美少女が婚約者なんてエーリック様も果報者よね」

「そうですね、お嬢様はまさに穢れなき妖精のごとき絶世の美少女――」

賛辞にふふんと笑い、そうだろそうだろと頷くウェルシェを眺めながらカミラは思う。

自分の主人は完全無欠パーフェクト――ただし、外見だけ。

「中身はこんなんですが」

「こんなのとは何よッ!」

エーリックと談笑していた時のお淑やかだった姿は見る影もない。まったく自分の主人は猫被りにかけては右に出る者はいないとカミラは感心するやら呆れるやら。

「私の見たところ殿下は清楚可憐な女性が好みのようです」

「だからぁ、私って完全に殿下のどストライクでしょ?」

「ええ、そうですね……」

胸を張って主張するウェルシェの姿をカミラは胡乱げなジト目で見る。

「完全なバッタもんですけど」

「酷ッ!」

——バンバン!

ウェルシェがテーブルを叩いて猛抗議したが、その姿は間違いなく正真正銘バッタもんだとカミラは確信する。

「一点のシミもない純白の皮がむけて、中から真っ黒黒介が飛び出してきたら、エーリック殿下は卒倒してしまいますよ」

「失礼ね!」

ウェルシェは不満そうに口を尖らせた。そんな態度は年相応に愛らしい。

「私の猫の皮はそう簡単にがれないわよ」

「……そういう問題ではないかと」

このズレたところもちょっと可愛いと思うカミラであった。

何だかんだ言いながらカミラは可愛い主人が大好きなのだ。

「いいですかお嬢様、白は好きな色に染められるのです」

しかし、そんな気持ちをおくびにも出さない彼女も大概である。

「ですが、逆に黒は何ものにも染まりません」

「何が言いたいのよ」

「いくら頑張って白に変えようとしても黒は黒のままなのです」

何か生暖かく見守られるような目を向けられて、ウェルシェはむぅっといよいよむくれた。

「貴族の婚姻は綺麗事ではないわ」

「さようでございますね」

「私の結婚にはグロラッハの領民の生活と幸せがかかっているの」

「重々承知しております」

ウェルシェの腹黒さが誰かを不幸にするものではない。それはカミラも知っていた。

「結婚してもエーリック様にボロは出さないし、領地も発展させてみせるわ」

「お嬢様には造作もない事かと」

ウェルシェは天邪鬼ながら性根は領民をおもんばかる真っ直ぐなものなのだ。

「みんなの幸せのためなら、いくらだって黒くなってみせるわよ」

「ご立派な決意でございます」

ウェルシェはまだ十五歳にして貴族の自覚を持っており、カミラは尊敬すべき主人に仕えられている幸運に感謝していた。

「ですが、私はちゃんと見ていましたよ」

「な、なによ?」

だが、同時にカミラは可愛い主人だからこそ決して甘やかさない。

「殿下を手玉に取って楽しまれていましたよね?」

「そ、そんな事ないわよ?」

「私にはバッチリ見えておりましたよ……恥ずかしがる素振りで顔を隠しても、手の隙間から口の端が吊り上がっていたのが」

自分の本性を知る侍女から胡乱げなジト目で見られ、ウェルシェの目は盛大に泳ぎまくったのだった。

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